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代表的な血液疾患の解説
総論
血液疾患の特徴と分類
血液疾患の診断
血液疾患の治療
白血病・リンパ腫・骨髄腫の診断と治療のポイント
各論
鉄欠乏性貧血・溶血性貧血
再生不良性貧血と骨髄異形成症候群
多血症・骨髄繊維症・本態性血小板血症
慢性骨髄性白血病の特徴
急性白血病
悪性リンパ腫
多発性骨髄腫
出血傾向
造血幹細胞移植
血液疾患に合併する感染症
鉄欠乏性貧血・溶血性貧血
病態と診断のポイント
 
  貧血は一番頻度の高い血液疾患である。
特に鉄欠乏性貧血は若年女性に多く認め,また外来診療において簡単に診断・治療ができる疾患でもある。
体内での鉄代謝を理解し,診断・治療に活かせるようになることを期待する。溶血性貧血は赤血球寿命短縮に起因する貧血の総称であり,病態は様々である。経過や予後,治療も疾患によって異なる。
 
 
1.鉄欠乏性貧血(iron deficiency anemia)
(1)鉄の動態
健常人の生体内鉄量は男性50mg/kg,女性35mg/kgであり,その約2/3は赤血球ヘモグロビンのヘム鉄であり,約1/4は貯蔵鉄であるフェリチンやヘモジデリンとして存在する。残りのわずかな量がミオグロビンやチトクロームCなどのヘム酵素に存在し生体の種々の機能に関与している(図1)。ヘモグロビン合成に利用される鉄は20〜30mg/日であるが,このうちのほとんどは寿命により壊された赤血球からのものである。一日あたりの鉄の必要最低量は汗,尿,便等から排泄される約1mgのみである。通常食事に含まれる鉄量は20〜30mgで,このうち1〜2mgが十二指腸や空腸上部から吸収され,必要量を維持している(図2)
図1 図2
図1 図2
(2)概 念
本疾患は,生体内の鉄欠乏によりヘモグロビン合成が障害されて起こる貧血であり,通常小球性低色素性貧血を呈する。鉄欠乏は,生体内の鉄の需要が供給を上回ったときに生じる。極端な偏食やダイエット,そして何らかの鉄吸収不全を除けば,供給不足により鉄欠乏を来すことは少ない。これに対し鉄需要が増加する原因としては出血,妊娠・出産・授乳,成長,溶血などが挙げられる。出血は最も頻度の高い原因である。特に成人女性では月経の出血に伴う鉄欠乏性貧血の割合が高い。その他,消化管からの出血(ポリープ,潰瘍,痔核,癌など)や,婦人科疾患(子宮筋腫など)に伴う頻度が高い。

(3)病 態
鉄欠乏があるからといって,すぐに貧血を生じるわけではない。まず貯蔵鉄が減少し潜在的鉄欠乏状態になる。この状態ではあまり症状を認めない。進行すると貯蔵鉄が枯渇し血清鉄が減少する。そして徐々に小球性低色素性貧血を認めるようになってくる(図3)。本疾患は生体内の鉄の減少に伴って緩徐な進行を認めることが多く,この場合体が順応し,貧血症状に乏しい。 図3
図3
(4)臨床症状
いわゆる貧血の症状(顔面蒼白,全身倦怠感,動悸,息切れ,めまい,耳鳴り,頭痛など)や,組織鉄の減少に伴う症状がある。後者は本疾患に比較的特異的なものであるが,実際に認めることは多くない。舌炎,口角炎,Plummer-Vinson症候群,さじ状爪(spoon nail,図4),異食症(pica)などである.Plummer-Vinson症候群は,鉄欠乏により舌から食道に及ぶ粘膜上皮萎縮変性に伴う嚥下困難や咽頭部異物感などの症状を指す.異食症は土,粘土,氷など通常食べないものを強迫的に摂食する症状をいう。原因は不明である。 図4
図4
(5)検査・診断
典型的な鉄欠乏性貧血では小球性低色素性貧血を示し,MCV,MCH,MCHCとも低下する。末梢血の塗抹標本では,環状赤血球(anulocyte,図5)と呼ばれる中央の抜けた赤血球や,標的細胞(target cell),さらには大小不同(anisocytosis),奇形赤血球(poikilocytosis)も認められる。鉄欠乏性貧血の診断には,小球性低色素性貧血と血清鉄およびフェリチンの低下,総鉄結合能(または不飽和鉄結合能)の上昇を確認すれば十分である。鑑別疾患として,低色素性貧血を来すいくつかの疾患がある(表1)。特に頻度の高い二次性貧血(腫瘍,炎症などに伴う)との鑑別が重要である。

図5 表1
図5 表1
(6)治 療
治療で大切なのは,貧血の原因が鉄の需要の亢進によるものか,鉄の供給低下によるものかを見分けることである。出血が主な原因である鉄欠乏性貧血に対して,鉄剤を投与するだけでは効果が乏しい。鉄剤の投与と同時に原疾患を治療するのが原則である。図3のように鉄の欠乏は貯蔵鉄から始まり徐々に貧血に達するが,鉄を補充し改善するのは貧血から貯蔵鉄の改善へと逆方向になる。すなわち貧血が改善するぐらいの鉄剤の補充では貯蔵鉄回復には至らないことを覚えておく必要がある。通常貧血が改善したのちフェリチン値の改善を確認し,鉄剤の投与を終える。もし出血などがなければ約2カ月で貧血はなくなり,さらに3カ月の鉄剤投与で貯蔵鉄が回復する

2.溶血性貧血(hemolytic anemia)
溶血性貧血とは,様々な原因によって赤血球が破壊されて起こる貧血の総称であり,多数の疾患が含まれる。破壊の結果,赤血球中のヘモグロビンや酵素(GOT,LDHなど)の逸脱,ヘモグロビンの代謝産物である間接ビリルビンの上昇を認める。またヘモグロビンやヘムの結合蛋白であるハプトグロビンは,溶血に伴い逸脱してきたヘモグロビンと結合するため低下する。他には脾腫,骨髄中の赤芽球過形成,糞尿中ウロビリノゲン増加などが認められる。厚生省の診断基準(1990年)を表2に記す。

溶血性貧血には様々な分類法がある.例えば,「先天性/後天性」,「血管外溶血/血管内溶血」,そして「赤血球の問題で溶血するか/赤血球以外の問題で溶血するか」などである。表3に代表的な分類を示す。病態や症状,治療などはそれぞれ異なるので,以下に重要な溶血性貧血を個別に説明する。
表2 表3
表2 表3
A.赤血球膜異常による疾患
A-1 遺伝性球状赤血球症(hereditary spherocytosis;HS)
遺伝性球状赤血球症は最も高頻度にみられる先天性溶血性貧血で,赤血球膜を構成するいくつかの蛋白の異常に基づく。膜に異常を有し,変形能の低い赤血球が脾臓にてトラップされ破壊されるのが溶血のメカニズムである。文字通り球状の赤血球を認める(図6)。一般的には常染色体優性遺伝を呈するが,劣性遺伝形式の症例や孤発例も存在する。黄疸と貧血が主症状であるが,見逃されて成人になってから指摘されることも珍しくない。胆石症の合併例があるが,多くは成人に認める。溶血の亢進により,代償性に造血が亢進していることが多い。経過中に感染症や薬剤の副作用で,溶血の増悪や,代償性造血の低下が起こると,溶血発作(hemolytic crisis)や無形成発作(aplastic crisis)を起こす。特に急激な高度貧血を起こす原因としてパルボウイルスB19を覚えておく必要がある。このウイルスは赤芽球系の前駆細胞を傷害し,高度貧血を認めることがしばしばある。

診断には先に述べた一般的な検査の他に,浸透圧脆弱試験や自己溶血試験を行う必要がある。前者は低張食塩水中に赤血球を加え,溶血の程度を調べる検査である。球状化した赤血球では低張液下で浸透してくる水分に対して容積を増やすことができず,容易に溶血を起こす。後者は全血を37℃で48時間放置後,自然溶血を観察する検査である。本疾患では溶血の亢進を認める。診断は上記の検査に加え,家族歴,既往歴がポイントとなる。

鑑別疾患は同じく膜異常に基づく遺伝性赤血球膜疾患である遺伝性楕円赤血球症(hereditary elliptocytosis;HE,図7),遺伝性有口赤血球症(hereditary stomatocytosis,図8)などである.球状赤血球は自己免疫性溶血性貧血でも認めるが,HSではクームス(Coombs)試験陰性である点が異なる。治療は脾摘が有効である。

図6 図7 図8
図6 図7 図8
B.ヘモグロビン異常による疾患
B-1 鎌状赤血球貧血(sickle cell anemia)
ヘモグロビンのβ鎖グロビンの6番目のグルタミン酸がバリンに置換された異常HbSによって,特有の臨床症状を示す疾患.黒人に起こる。マラリアに対する抵抗性があり,アフリカ黒人では常染色体劣性遺伝を示す。本症の赤血球は,低酸素分圧下で文字通り鎌状を呈する(図9)。変形能を失ったこの異常赤血球が毛細血管に詰まって梗塞や組織壊死を起こす。根本的な治療はなく,症状を増悪させるような要因(感染,寒冷刺激)を避けるよう指導する。 図9
図9
B-2 サラセミア(thalassemia)
グロビン鎖のいずれかの合成障害に起因する小球性貧血を呈する疾患の総称.WHOの報告では,世界総人口の5%が異常ヘモグロビンもしくはサラセミアの遺伝子を保有しているというが,本邦では軽症βサラセミアが多く,その頻度は0.1%程度と考えられている。

遺伝子変異に伴うグロビン鎖間に合成の不均衡が起こることで,過剰なグロビン鎖の沈殿,赤血球の変形による溶血などの臨床症状を来す。ヘモグロビン分析,家系調査で診断する。治療は輸血以外に適当な治療はなく,対症療法が主体となる。

C.免疫機序による疾患
C-1 自己免疫性溶血性貧血(autoimmune hemolytic anemia;AIHA)
本疾患は,赤血球膜上の抗原に対して何らかの機序で自己抗体が作られ,それが赤血球膜抗原と結合する結果,主に脾臓で捕捉され溶血を起こす貧血である。温式抗体による病型を単に自己免疫性溶血性貧血と呼ぶ場合が多い。男性より女性に多く,若年成人に好発する。通常貧血はゆっくり進行し,次第に全身倦怠感,労作時の動悸,息切れなどの症状が出てくる。黄疸も認めるが,あまり顕著でないことが多い。治療は副腎皮質ステロイドが第一選択である。AIHAに特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura;ITP)を合併するものは,Evans症候群と呼ばれ,貧血症状に出血傾向が加わる。
C-2 寒冷凝集素症(cold agglutinin disease;CAD)
本症は冷式抗体による自己免疫性溶血性貧血に属する。寒冷凝集素はIgMで血液型のI抗原特異性を示す。この冷式自己抗体は末梢循環中の低温部位で赤血球に結合する。体循環に戻り37℃近くに戻ると,抗体は赤血球から離れる。しかし補体は抗体によって古典的経路が活性化され,この補体が結合したままの赤血球は網内系で処理され,溶血が惹起される。冷式抗体が産生される機序は不明であるが,感染症や悪性腫瘍を伴うことが多く,これらが原因として考えられる。症状は慢性的な貧血所見と,寒冷暴露に伴い耳介や手指末梢などの低温部位でのチアノーゼである。末梢血塗抹標本で赤血球凝集を認めるが,加温した標本ではこれが消失する。AIHAで有効であるステロイド剤の効果はあまり期待できず,原疾患の治療と寒冷暴露を避けることが主たる治療となる。
C-3 発作性寒冷血色素尿症(paroxysmal cold hemoglobinuria;PCH)
Donath-Landsteiner(DL)抗体と呼ばれる,IgG冷式自己抗体が原因の疾患である。この自己抗体は低温で赤血球と結合するが,この際,補体も結合する。低温のままでは補体は活性化しないが,37℃近くに戻ると古典的経路により活性化され溶血が起こり,血色素尿を認める。梅毒やウイルス感染を伴うことがある。貧血,黄疸そして血色素尿症などは症例により程度が異なる。診断はDL抗体の検出による。治療はCADと同様に寒冷刺激からの回避である。ステロイドを使用することもある。梅毒合併例ではこれを治療する。

以上,AIHAからPCHまでを(表4と図10)にまとめた。

表4
表4
図10
図10
C-4 発作性夜間血色素尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria;PNH)

血球膜表面の補体制御因子の欠損により,補体の活性が抑えられず血管内溶血を生じる後天性溶血性疾患である。夜間睡眠時に溶血が起こり,起床後の最初の尿でコーラ様の血色素尿を認める特徴的な症状を有する。本態は補体制御因子であるglycosyl-phosphatidyl inositol(GPI)アンカーの合成障害である。この結果GPIアンカーの末端に付く補体活性化を抑制するdecay accelerating factor(DAF)やCD59に完全・部分的欠損を認め,溶血が起こる(図11)。夜間に溶血が起こるメカニズムは,睡眠中にCO2や乳酸などが蓄積し,血液が酸性になり補体が活性化されるためである。貧血の程度は様々である.検査所見では間接ビリルビンの上昇や尿中ヘモジデリンを認める他,Ham試験・砂糖水試験やフローサイトメトリーでの血球上のDAFやCD59の低下などにより本症と診断することができる。再生不良性貧血を合併する「再生不良性貧血―PNH症候群」がある。通常治療には,蛋白同化ホルモンを使用する。骨髄移植は根治的な治療法であるが,その危険性のため行われることは少ない。高度の溶血で輸血が必要な際には洗浄赤血球を使う必要がある。また溶血が続くことにより鉄欠乏になることがあるが,鉄の補充により異常赤血球が大量に産生されると,溶血発作が誘発される可能性があるので慎重な投与が必要である。

図11
図11
D.薬剤起因性溶血性貧血
D-1 ハプテン型
薬物が赤血球に付着して抗原となり,これに対する抗体を作り,補体の関与で溶血を来す.産生される抗体はIgGであり,ペニシリン等が代表的な薬剤である。
D-2 抗原抗体複合型

血漿内の蛋白と結合した薬剤が抗体を作り,この複合体が赤血球に付着することにより補体の赤血球への付着を引き起こすことが,溶血の原因となるタイプ.主としてIgMであり,キニン,キニジン等が代表的な薬剤である。

ハプテン型および抗原抗体複合型について図12に示す。

図12
図12
D-3 自己抗体型
薬剤が抗体産生に直接働きかけて自己抗体が産生されるタイプ。薬剤は直接赤血球と付着することなく,自己免疫性溶血性貧血と同じ病態である。α-メチルドパやメフェナム酸等が代表的な薬剤。。
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