JUNTENDO UNIVERSITY
血液内科の紹介 患者さまへ 代表的な血液疾患の解説 患者さまの為の解説 研修医オリエンテーション 順天堂大学の学生諸君へ 入局案内
代表的な血液疾患の解説
総論
血液疾患の特徴と分類
血液疾患の診断
血液疾患の治療
白血病・リンパ腫・骨髄腫の診断と治療のポイント
各論
鉄欠乏性貧血・溶血性貧血
再生不良性貧血と骨髄異形成症候群
多血症・骨髄繊維症・本態性血小板血症
慢性骨髄性白血病の特徴
急性白血病
悪性リンパ腫
多発性骨髄腫
出血傾向
造血幹細胞移植
血液疾患に合併する感染症
出血傾向
なぜ出血傾向がみられるのか
 
  出血傾向は,血小板,血管壁,または凝固線溶系蛋白の異常により,止血が困難であるか(血栓ができづらい),または,いったんできた血栓が脆弱な(溶解しやすい)ために生じる。原因は,血小板または血管壁の異常と凝固線溶系の異常に二大別される。

 
 
病歴聴取,身体所見のポイント
 
  まず出血の部位と重症度をみて,緊急輸血が必要かどうか判断する。片側の鼻出血など局所的な出血だけの場合は,出血傾向ではなく,局所の異常(外傷,炎症,縫合不全)を疑う。身体所見では,皮膚,粘膜の紫斑(purpura)〔点状出血(petechiae:1〜2mm以下)(図1)と斑状出血または溢血斑(ecchymosis:それ以上の大きさ)(図2)〕をよく観察する。血小板または血管壁の異常では点状出血が,凝固系蛋白の異常では深部出血(筋肉・関節内出血)が特徴的である(表1)。病歴では,いつから出血傾向がみられるのか(急性出血か慢性出血か),また先天性か後天性か鑑別するために,これまで止血困難なことがなかったか,親族に出血傾向がみられないか確認する。さらに基礎疾患および合併症の有無,薬剤投与歴についても確認する。

 
 
図
図1
図
図2
表1
表1
どういう検査をどういう手順で行うか─診断のポイント
 
  最初に行うスクリーニング検査は,血小板数と凝固系検査(プロトロンビン時間:PT,活性化部分トロンボプラスチン時間:APTT)で十分である(図3)。これらに異常がない場合は,出血時間(延長していれば血小板機能異常症が疑われるので血小板凝集能検査を行う)の他に,XIII因子,a2-プラスミンインヒビター(α2-PI)活性の測定を行う。DICが疑われる場合は,さらにフィブリノゲン,FDPを測定する。一方,PTあるいはAPTTが延長しているのに出血傾向を認めない場合は,循環抗凝血素(インヒビター)を疑い,後述の混合補正試験を行う。

 
 
図3
治療はどうしたらよいか
 
  血小板数1×104/μR(以下,万と略)以下,1〜3万でも生命を脅かす重篤な出血(脳出血,大量の消化管出血,性器出血など)に対しては直ちに血小板輸血を行う。凝固線溶系の異常が疑われるが,どの因子の異常か特定できない場合には,とりあえず凍結血漿を輸注し,減少している凝固因子が確定できたら,それぞれの凝固因子製剤を輸注する。

 
 
1.血小板,血管壁の障害による出血傾向
血小板数は2〜3万以下にならなければ,日常生活で出血傾向を来すことはまずない。また,血小板数が減少しているのに出血傾向が全くみられない場合は,EDTA凝集(図4),血小板衛星現象(図5)などの偽性血小板減少症または巨大血小板の存在を疑い,末梢血塗抹標本を観察する。血小板数が10万以上であるのに出血時間が延長している場合は血小板機能異常症を疑い,血小板凝集能検査を行う。血小板数,凝集能,出血時間,凝固線溶系検査に異常が認められないのに出血傾向を示す場合は,一括して血管性紫斑病と診断される。

図
図4
図
図5A
図
図5B
(1)特発性血小板減少性紫斑病(ITP)
発症形式から,ウイルス感染1〜2週後に急激に出血を来すが,3〜6カ月以内に治癒することの多い急性型と,数カ月〜数年の経過をもって発症し,治療により一旦血小板数が増加しても再発することの多い慢性型に分けられる。前者は小児に,後者は成人女性に多くみられる。ITPは自己免疫疾患であり,GP I I b-I I Ia(フィブリノゲンレセプター)やGP I b- I X-V(von Willebrand因子レセプター)などに対する自己抗体が血小板表面に結合することにより,血小板がマクロファージに貪食され,主として脾臓で破壊されるために減少する。診断にあたっては,骨髄で巨核球数が正常ないし増加していることを確認し(図6),他に血小板減少を来す疾患を除外する必要がある(表2)
なお,血小板結合性免疫グロブリンG(PAIgG)は,血小板サイズが大きくなれば増加し,ITPに特異的な検査ではないので注意を要する。初期治療としてまずステロイドを投与するが,反応に乏しかったり,少量でも血小板数の維持が困難な場合,副作用が強くて継続できない場合には,脾摘を行う(図7)。ステロイドおよび脾摘に反応しない難治症例に対しては,シクロホスファミド,アザチオプリンなどの投与を試みる。また,重篤な出血や手術,分娩時など緊急に血小板を増加させる必要がある場合は,免疫グロブリン製剤の大量投与や血小板輸血が行われる。長期的にみた出血による死亡率は1〜2%である。

図
図6
表2
表2
図7
図7
(2)血栓性血小板減少性紫斑病(TTP),溶血性尿毒症症候群(HUS)
TTP,HUSの両者は互いに似た臨床症状,病態を示すが,TTPは,発熱,微小血管障害性溶血性貧血,血小板減少による出血傾向,腎障害,精神神経障害の5徴候により特徴づけられる症候群であり,HUSはその中で小児に多く,腎障害の程度が強いが,精神神経障害が軽い症例を指す。女性に多く,誘因がはっきりしないことが多いが,しばしば感染(大腸菌O157感染はHUSを合併する),稀に薬剤投与や放射線照射後,妊婦,自己免疫疾患に合併する。TTPの発症には,血管内皮障害と巨大von Willebrand因子(vWF)重合体による血小板凝集の亢進が重要な役割を果たしているが,最近,先天的欠損または自己抗体によるvWFメタロプロテアーゼ活性の低下が病因として注目されている(vWFが小さな分画に分解されず巨大なvWFが生じる)。病理学的には小細血管の多発性血栓形成により臓器の虚血,壊死,出血を来す。検査所見では,奇形(破砕)赤血球の存在が重要であり(図8),凝固系検査は軽度のFDP増加以外は正常である。

5徴候が同時にみられることはきわめて稀であるので,血小板減少と微小血管障害性溶血性貧血があり,DICなどの他の疾患が除外できればTTPと診断して(表3),治療,すなわち新鮮凍結血漿の輸注とともに速やかに血漿交換を行い,ステロイドを投与する。この際血小板輸血は血栓を誘発する危険性があるので,極力避けるべきである。これらの治療が奏効しない場合,ビンクリスチン,アザチオプリンの投与,あるいは脾摘を行う.以前は致命率が高かったが,血漿療法導入により最近は高率に寛解するようになった。しかし症例の約20%は再発する。
図
図8
表3
表3
(3)血小板機能異常症
先天性血小板機能異常症には,GPIIb-IIIaの欠損による血小板無力症(Glanzmann’s thrombasthenia),GPIb-IX-Vの欠損によるBernard-Soulier症候群,storage pool病(顆粒に含まれる分泌物質の減少または放出障害),May-Hegglin異常(図9)などがある。これらの鑑別には,血小板,顆粒球の形態観察の他に,血小板凝集能検査が必要である(図10,表4)。後天性血小板機能異常症で多くみられるのは,骨髄増殖性疾患(この場合は,出血傾向の他に血栓症もみられる),尿毒症,感染症,薬剤投与後などである。

図
図9
図
図10
表
(4)血管壁の異常─血管性紫斑病
血管壁の異常には,老人性紫斑病,若い女性に多い単純性紫斑病,アレルギー性紫斑病(Sch嗜lein-Henoch purpura),ステロイド長期投与後の紫斑などがある。アレルギー性紫斑病は皮膚粘膜出血,関節症状,腹部症状を主徴とするアレルギー性血管炎を来す免疫複合体病で,小児および青少年期に多い。出血症状は下肢の対称的な紅斑で始まり,しばしば4痒感,発熱,全身倦怠感を伴う。関節症状(足および膝関節痛など),消化器症状(腹痛,稀に下血),腎症状(顕微鏡的血尿)は,数週で軽快することが多いがしばしば再燃する。治療は対症療法が原則であり,関節痛が強ければステロイドを,重症例にはXIII因子を投与する。
2.凝固因子の異常による出血傾向
(1)先天性凝固因子欠損症
頻度が高い疾患は,血友病A(VIII因子欠損症),血友病B(IX因子欠損症),およびvon Willebrand病(vWD)(vWF欠損症)である。血友病が伴性劣性遺伝病であるのに対し,vWDは常染色体遺伝病であるので発症に性差はみられない。血友病では深部出血が特徴的であってAPTTが延長するが,vWDではさらに出血時間も延長する。診断の確定および重症度の判定のために,それぞれ血中のVIII因子,IX因子,vWFの活性とその抗原量(蛋白量)を測定する。治療法として,血友病AとvWDに対してはVIII因子製剤,血友病Bに対してはIX因子製剤を補充するが,軽症の出血にはバソプレシン(DDAVP)が有効である。また補充療法を継続中にこれらの凝固因子に対する抗体(インヒビター)の出現をみることがあり,高抗体価の症例では止血管理が困難である。これに対する治療法として,凝固因子の大量投与,プロトロンビン複合体やVII因子製剤の投与(バイパス療法),免疫抑制剤の投与がある。

PT正常,APTT 延長を示す他の内因系凝固因子欠損症には,XI,XII因子,高分子キニノゲン,プレカリクレイン欠損症があるが,XI因子欠損症以外は出血症状がみられない。一方,PT延長,APTT正常を示す疾患はVII因子欠損症,PT,APTTの両方とも延長する疾患はV因子,X因子,プロトロンビン,フィブリノゲンの欠損症である(図3)。

(2)後天性凝固因子低下症
出血傾向の既往がなく,また凝固因子を低下させる基礎疾患のない患者が,PTまたはAPTT延長を示す場合,獲得性阻止物質(インヒビター)の存在を疑う必要がある。その本体は凝固因子活性を抑制する自己抗体であり(IgGが多い),自己免疫疾患,リンパ増殖性疾患,アミロイドーシスに合併したり,薬剤投与,妊娠,分娩時,また,特定の誘因なく健常人に発生することもあるが,この場合は高齢者に多い。出血症状を伴うこともあるが,出血がなく,偶然,凝固学的検査の異常や,ループスアンチコアグラントのように,血栓症状を契機に発見されることがある。
インヒビターのスクリーニングには,混合補正試験が有用である。混合補正試験とは,正常血漿とバッファー,正常血漿と患者血漿を1:1に混合し,37℃で2時間インキュベーションした後,PTまたはAPTTを測定,比較するものであり,PTまたはAPTTの延長が,凝固因子の低下によるのか,または凝固因子に対する抗体によるのか,鑑別する上で最初に行うべき検査として重要である(表5)

凝固因子のほとんどが肝臓で合成されるため,重症の肝疾患では凝固因子が低下し,出血傾向を来す.症状としては消化管出血が多く,肝硬変では,脾腫のため血小板数も減少する。またビタミンK欠乏症は,新生児,乳児でみられる他,成人では,経静脈栄養,抗生剤投与,胆汁うっ滞に際して稀にみられる。この際,ビタミンK依存性凝固因子(プロトロンビン,VII,IX,X因子)の産生が低下するため,消化管出血を主体とする出血傾向を来すことがある。ビタミンK欠乏により,凝固因子のγ-カルボキシル化が障害される結果,PIVKA-IIが上昇する点が特徴的である。

表

(3).播種性血管内凝固症候群(DIC)
何らかの原因により,凝固活性物質(主に組織因子)が血液中に大量に流入あるいは接触したり,血管内皮細胞の抗血栓作用が障害を受ける結果,細小血管内で血栓が形成される。その結果,血小板,凝固因子が消費されて減少すると同時に,二次的に線溶系も活性化されるために血栓が溶解し,FDPが増加する。したがって出血と血栓に基づく症状がみられるが,臨床的には出血傾向が前面に出ることが多い。DICを来す基礎疾患はいずれも重篤なものが多く,感染症,悪性腫瘍(急性白血病,特に急性前骨髄球性白血病など),産婦人科的疾患(常位胎盤早期剥離,羊水塞栓など)がある(表6)。診断上,急激な血小板の減少とFDPの上昇が重要であり,さらにPT,APTTの延長,フィブリノゲンの低下をみて診断する。治療の大前提は基礎疾患の治療である。次いで血小板輸血,新鮮凍結血漿による凝固因子の補充が重要であり,さらに止血管理が困難な場合や血栓症による臓器障害が強い場合に,ヘパリンなどの抗凝固剤の投与を行う。しかし脳出血,大量の消化管出血など生命を脅かすような出血に際しては,抗凝固剤の投与は禁忌である。

表
表6

page top
| ホーム | 血液内科の紹介 | 患者さまへ | 代表的な血液疾患の解説 | 患者さまのための解説 | 研修医オリエンテーション | 順天堂大学の学生諸君へ | 入局案内 |