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代表的な血液疾患の解説
総論
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血液疾患の診断
血液疾患の治療
白血病・リンパ腫・骨髄腫の診断と治療のポイント
各論
鉄欠乏性貧血・溶血性貧血
再生不良性貧血と骨髄異形成症候群
多血症・骨髄繊維症・本態性血小板血症
慢性骨髄性白血病の特徴
急性白血病
悪性リンパ腫
多発性骨髄腫
出血傾向
造血幹細胞移植
血液疾患に合併する感染症
多発性骨髄腫
病態と診断のポイント
 
  多発性骨髄腫は免疫グロブリンを産生する形質細胞の腫瘍性疾患である。
60歳以上の高齢者に発症する.腰痛,息切れや骨疼痛,貧血症状などを主徴として来院することが多い。骨髄腫細胞はモノクローナルな免疫グロブリン(M蛋白)を大量に作るため,血清検査では電気泳動にてMピーク(図1)を,免疫電気泳動ではM-bowを認め(図2),尿中には免疫グロブリンのL鎖であるBence Jones蛋白(BJP)(図3)をしばしば検出する。骨病変の存在は診断,予後の判定に重要であるが,単純骨X線像で,辺縁明瞭な溶骨性病変である“punched-out lesion”(抜き打ち像)を呈するのが特徴である(図4〜6)。骨髄穿刺または骨髄生検で異型性の強い形質細胞(骨髄腫細胞)(図7〜10)を10%以上認める。M蛋白量の早期増加や,貧血,骨破壊,腎障害の進行,β2ミクログロブリンの高値,高カルシウム血症などを呈する症例は予後不良である。

臨床病期II〜III期の症例では通常治療が行われ,治療開始後は平均生存期間は約3年,10年以上の生存率約3〜5%前後と報告されることが多く,長期予後が難しい疾患であるのが現状である。

 
 
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1.疫学・発症機序・分類
(1)疫 学
多発性骨髄腫は40歳以後,特に60〜70歳に多くみられる高齢者疾患であり,発症頻度は男性にやや多いといわれた時期があったが,最近は男女比はほぼ1対1とされる。近年罹患率,死亡率は増加傾向にある。1992年以降,死亡数,死亡率とも増加傾向にあるが,60歳以降の死亡率が頭打ちの状態にあることなどより,老年人口の増加を反映しているに過ぎないと考えられている。

多発性骨髄腫は,1850年Macintyreが最初に症例報告をし,同症例で多発性骨髄腫におけるBence Jones蛋白の存在がBence Jonesによって報告1)された。その後,1873年にmultiple myelomaの病名が初めて用いられたとされている。

多発性骨髄腫の病因論に関しては種々の報告がある。人種差によって発症頻度が違うこと,家族内発症,特定のマウスに形質細胞腫ができることなどによる遺伝説,被曝者や放射線技師に高率に発症する放射能説,特定地域に起こるウイルス感染説,炎症性疾患に続発して起こる慢性刺激説などがあるが,いずれも骨髄腫の病因としては不十分であるといわざるを得ない。
(2)発症機序
多発性骨髄腫はB細胞の最終分化段階である形質細胞の腫瘍性疾患である。

1.骨髄内微小環境:In vitroにおいて骨髄腫細胞を維持するのに骨髄類似の微小環境を作る必要があり,そのためには骨髄ストローマ細胞が必須であり,単球やマクロファージの存在も重要であることが判明した。また骨髄内微小環境で,骨髄腫の成熟・分化に,他の細胞群との関連性において接着因子(VLA-4,5,CD40/40L,CD28/CD80,86)の重要性も報告されている。

2.サイトカイン:IL-6,IL-1,LIF,OSM,GM-CSF,G-CSF等のサイトカイン類の重要性が示唆されている。特にIL-6に関しては骨髄腫細胞より骨髄ストローマ細胞にIL-6mRNAの発現が高いことよりパラクライン説が有力視されている.複数のサイトカインが複雑に関与していると想定される。

3.癌遺伝子:古くからC-myc,Bcl-1/2が関与している報告,N-ras,K-rasの点突然変異,IgH遺伝子群の複数遺伝子転座異常などの報告があるが,骨髄腫特有の遺伝子異常は明らかになっていない。

(3)分 類
Kyleら2)は,以前,多発性骨髄腫,マクログロブリン血症,アミロイドーシスなど血液悪性疾患に属さないM蛋白血症を良性M蛋白血症と呼んでいたが,19年間の追跡調査でその約20%は骨髄腫類縁疾患に移行することを示し,診断未確定のM蛋白血症(MGUS ; monoclonal gammopathy of undetermined significance)と呼ぶことを提唱した。MGUS241例の基礎疾患の主なものとして,悪性腫瘍,感染症,膠原病などが含まれる.これらを表1として簡単にまとめた。

多発性骨髄腫の分類は報告者や考え方によって異なり,統一されない難しさがある.(1)病変の広がりや進行度,部位などを考えての分類,(2)M蛋白の種類で分ける分類(IgGκ,IgAκ,IgDκ,IgEκ,BJP typeなど),(3)骨髄腫の形態学的な特徴である未熟型,中間型,分化型を考慮した分類(mature,inter-mediate,immature,plasmablasticなど)がある。ここでは,最初の分類(1)について解説した(表2)。

2.臨床像・病期分類・予後
(1)臨床像─症状・検査所見
発症年齢は,男性は60〜65歳,女性70〜75歳に多い.初発症状,主訴などで頻度の高いものとして,疼痛(腰痛,胸背痛)がある。これは,骨破壊,神経圧迫によって生じるとされる。次に多いのは息切れ,動悸,顔色不良などの貧血症状,その他として全身倦怠感,体重減少,気道感染症,出血傾向などが報告されている。肝脾腫,リンパ節腫脹,神経症状(対麻痺,脳神経炎,多発性神経炎)を呈する患者も認める。高カルシウム血症,過粘稠度症候群に伴う腎不全,意識障害を示す症例は予後不良である。

末梢血液像で貧血,赤沈亢進,赤血球連銭形成(図12)を示し,骨髄穿刺・生検では異型性の強い骨髄腫細胞を10%以上認める。血清電気泳動では,M蛋白の存在を示すMピークが認められ,他の免疫グロブリンは減少し,免疫電気泳動ではM-bowを認める。Bence Jones型骨髄腫は総蛋白は電気泳動法では低値を示し,尿には多量のBence Jones蛋白が存在する。尿検査では,Bence Jones蛋白,沈g異常がみられる。骨X線像では頭蓋,大腿骨等に抜き打ち像がみられ,シンチグラフィー,CT,MRI(図13)検査では骨髄腫の限局性の溶骨性変化が詳細に解析できるようになった。その他の検査所見として重要なのは,血清Ca値であり,急速な意識障害,腎障害を来す症例は予後不良であり,十分な治療,管理が必要とされる。

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図12
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(2)臨床像─主要臓器所見
1.骨:多発性骨髄腫において骨病変の存在は重要な予後因子であり,骨痛,病的骨折,骨折による神経圧迫症状は生存期間を縮める。骨病変の診断は先に述べた骨X線像,CT,MRI,シンチグラフィーなどで容易である。骨溶骨性病変の病因に,OAF(osteoclast activating factor)の重要性が指摘された。その後の研究でOAFは単一因子ではなくTNF,IL-1,IL-6,G-CSFなど複数のサイトカインが破骨細胞の活性化にかかわり,骨溶骨性病変を引き起こしていると考えられている。

2.腎:一般に骨髄腫腎と呼ばれる.Bence Jones蛋白尿の排泄増加による円柱形成性尿細管障害が中心である.その他,腎アミロイドーシス,尿酸腎症,高カルシウム血症性腎症がある。高カルシウム血症をきたすと,Caが尿細管細胞,尿細管基底膜に沈着し変性壊死に陥り,間質性腎炎を呈する.急激に高カルシウム血症が進行すると,腎血流量低下,脱水に続いて急性腎不全を招きやすく予後不良である。IgD,Bence Jones型骨髄腫に腎障害が多い。

3.神経:多発性骨髄腫では50%以上の症例で神経病変を呈するという報告が多い。その主なものとして,骨髄腫の直接侵襲障害,骨髄腫の症状(高カルシウム血症,出血)に続いて起こる神経障害,化学療法薬に伴うものが挙げられる.頻度的に高いものとして,神経根痛,脊髄神経圧迫障害などがあるが,骨障害による疼痛も含まれる。脳障害の報告例には腫瘍の直接浸潤ではなく,骨髄腫に伴う高カルシウム血症,貧血や,治療薬によるものも多い。治療薬のビンクリスチンによる末梢神経障害や腸管麻痺によるイレウス症状の症例も少なくない。

(3)病期分類
Durie & Salmonの分類(表3)が頻用されている.ヘモグロビン濃度,血清M蛋白量,尿中M蛋白量,Ca値,骨病変の5つの因子と腎障害の有無をもとに,三病期に分類した.この分類は,臨床的な重症度,治療奏効率を反映するとされ,病期が進むほど生命予後が悪い。
(4)予 後
種々の報告があるが,長期生存は難しいと考えられている。

臨床病期1〜4期の症例で通常治療が行われ,治療開始後は平均生存期間は3年,10年以上の生存率約3〜5%と報告され,長期予後が望めない疾患であるのが現状である1)。予後因子について,多施設の研究が報告されているが,優れた予後因子に関しては現在十分に議論し尽くされてはいない。その重要なものとして,年齢,PS(performance status),Hb,血小板数,LDH,血清Ca値,β2ミクログロブリン,CRP,BJP,アルブミン,骨髄腫細胞数,UA,labelling-indexなどがある。

3.治 療
治療開始時期について種々の議論があるのは,高齢発症で予後不良の疾患のため当然といえる.通常,Durie & Salmonの分類のII,III期が治療対象となる。

治療の主体は化学療法であり,異なる位置付けとして放射線療法および外科療法がある.これらを補佐する意味として補助療法が存在し,その効果は治療成績向上につながる。ここでは,これらの治療法に加えて,最近本邦や欧米で積極的に行われつつある造血幹細胞移植の意義,適応,免疫療法などの新しい治療にもふれる。

(1)化学療法
1.MP:メルファランとプレドニゾロンとの併用療法で,少量持続投与法と大量間欠投与法がある。化学療法のゴールデンスタンダードであり,多剤併用療法と生存率に差のないことが1998年に国際的に評価されている。

2.CP・CVP・MCNU-VMP:CP(サイクロフォスファマイド+プレドニゾロン),CVP(サイクロフォスファマイド+ビンクリスチン+プレドニゾロン)のように多剤を併用して治療効果を期待する療法で,MCNU-VMP療法(MCNU+ビンデシン+メルファラン+プレドニゾロン)もその一つである。

3.VAD:ステロイドパルス療法にドキソルビシンとビンクリスチンの少量持続投与を組合せることにより,メルファラン耐性の骨髄腫症例に有効とされる。

4.その他の化学療法:M-2,VMCP,VCAP,VBAP,hyper CVAD,high-dose melphalanなどがある。

5.IFN-α/IFN-α併用化学療法:インターフェロン単独,インターフェロン+化学療法はMPと比較して有効性は証明されていなが,腫瘍量の少ない病期I,IIに効果があるとの報告がある。

(2)放射線療法
孤立性形質細胞腫や髄外性形質細胞腫に対する効果は良好なため,第一選択の治療である。多発性骨髄腫に対する位置付けは,局所の疼痛寛解や脊髄圧迫症状を呈する重篤な神経障害などの改善が主目的であるが,化学療法抵抗例で全身照射法である半身照射法が積極的に行われている施設もある。

(3)外科療法
孤立性形質細胞腫や髄外細胞腫などで手術可能な症例,神経根圧迫に対するlaminectomyは適応である。
(4)補助療法
1.高カルシウム血症,腎障害対策:原病に対する治療に加えて次の対策を行う。十分な補液と水利尿を行い尿量を維持する。ビスホスホネート製剤やカルシトニンを投与し血清Ca値の低下を図る。腎機能を悪化させる造影剤の使用や不適切な利尿剤の投与を避ける。

2.骨融解:ビスホスホネート製剤が有効である。

3.感染症,貧血対策:液性,細胞性免疫の低下があるため日和見感染しやすい。顆粒球異常も報告されている。抗生剤,γ-グロブリン製剤,G-CSF等を積極的に用いる.貧血に対してエリスロポエチンを用いることがある。

(5)造血幹細胞移植
1.自家造血幹細胞移植:メルファラン大量前処置等のもとに末梢血/骨髄幹細胞移植治療が行われているが,治療成績・生存率の改善に関しては十分とはいえない。通常の化学療法との比較検討が現在なされている。

2.同種骨髄移植と同種末梢血幹細胞移植:生存曲線が平行に達する意味で,自家よりは再発率が少なく,唯一の根治療法ではあるが,適応年齢の限界,早期治療関連死亡が多く,問題点が山積している。

3.ミニ移植:非骨髄破壊前処置として免疫抑制剤(フルダラビン,MMF,ATG)や低濃度の放射線照射を用い,ドナーリンパ球輸注(DLI)との組合せによって,この疾患の高齢発症,前処置関連毒性の問題点を解消し抗腫瘍効果を期待できる治療である。

(6)サリドマイド投与
1998年頃より米国施設を中心として,サリドマイドが治療抵抗性多発性骨髄腫に治療効果があるということが報告されている.作用機序は不明だが,骨髄腫の持つ血管新生作用,血管新生に関与するサイトカイン(TNFα,VEGFなど)の放出を抑制するとの説がある。
(7)免疫療法
臨床応用としては,海外の特定研究施設で有効性が確認されたのみであり,これからの新しい治療といえるものがほとんどである.今後の成果が注目される。

1.抗IL-6/抗IL-6リセプター抗体:骨髄腫のIL-6を介するautocrine増殖を抗体によって阻止する。

2.抗CD38抗体:抗CD38抗体+ricin結合体を用いて骨髄腫細胞を障害する。

3. Idiotype特異的免疫の誘導:Id(イディオタイプ)-免疫グロブリンをドナーにワクチンし,免疫されたドナーリンパ球を患者に投与する。GM-CSF,やIdで免疫された樹状細胞を利用した方法である。


文 献

1)戸川 敦:多発性骨髄腫,新興医学出版社,1994.

2)Kyle RA. Monoclonal gammopathy of undetermined significance : A review. Clin Hematol 1982 ; 11 : 123-150.

3)Durie BGM and Salmon SE. A clinical staging system for multiple myeloma : correlation of measured myeloma cell mass with presenting clinical features, response to treatment and survival. Cancer 1975 ; 36 : 842-854.

4)Kyle RA, et al. Smoldering multiple myeloma. N Engl J Med 1980 ; 302 : 1347-1349.

5)Alexanian R. Localized and indolent myeloma. Blood 1980 ; 56 : 521-525.

【謝辞】本稿の作成にあたり,ご協力をいただいた順天堂大学放射線学教室の方々に深謝いたします。

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